請求書のPDFを開き、取引先名、日付、金額をExcelへ入力する。納品書や注文書でも、同じような転記を繰り返していないでしょうか。
PDFからExcelへの転記は、書類から文字を取得し、必要な項目を整理して、決められた列へ出力するところまで自動化を検討できます。ただし、使う方法はPDFの種類と、転記後に行う作業によって変わります。
最初に整理したいのは、「PDFをExcelに変換できればよいのか」「毎月繰り返している入力業務を減らしたいのか」という目的です。
この記事では、中小企業の業務で使うことを前提に、自動化できる範囲、方法の選び方、開発を依頼する前に確認しておきたいことを説明します。
「PDFをExcelに変換する」と「転記業務を自動化する」の違い
PDFをExcel形式に変換しても、入力の手間が十分に減るとは限りません。
たとえば、変換後の表から必要な数字だけを探し、社内の台帳へコピーしているなら、その作業は残ります。取引先ごとに書類のレイアウトが違う場合は、毎回、列や行を整え直すこともあるでしょう。
転記業務の自動化では、元の書類をそのまま再現することに加えて、業務で必要な情報を、使いたい形にそろえることを考えます。
請求書を例にすると、取引先名、請求日、請求番号、請求金額を取り出し、Excelの台帳に決めた順番で並べる、といった形です。必要に応じて、日付の表記をそろえる処理や、同じ請求書を二重に登録しないための確認も組み込みます。
なお、取引先や利用中のシステムから、必要な項目を含むCSVやExcelデータを受け取れるなら、そのデータを使う方法を先に検討できます。PDFを読み取る工程そのものを省けるからです。
PDFからExcelへの転記は、どこまで自動化できる?
自動化を考えるときは、作業を「文字を取得する」「項目を整理する」「確認する」「出力する」に分けると、必要な仕組みが見えてきます。
- 書類を取り込む
対象のPDFや画像を選びます。
- 文字を取得する
文字データを取得。画像の場合はOCRで読み取ります。
- 項目を整理する
取引先名・日付・金額などを、出力先に合わせて整えます。
- 内容を確認する
元の書類と照合し、必要な修正や承認を行います。
- Excelへ出力する
決められた列へ出力。要件に応じて台帳への追記も検討します。
人による確認を挟む構成の一例です。自動化する範囲は、書類と業務の条件に合わせて決めます。
どこまで自動で進めるかは、実際の書類で読み取り結果を確かめ、間違いが業務に与える影響も踏まえて決めます。
たとえば、請求金額や振込先など、誤りの影響が大きい項目を確認対象にする方法があります。読み取れない項目を確認待ちとして扱い、残りの書類の処理を進める設計も考えられます。
すべての工程を一度に自動化する必要はありません。「必要な情報が列ごとに並んだ状態まで作り、人が確認して登録する」という範囲でも、手入力を減らす方法になります。
PDFの種類と、転記後の作業に合わせて方法を選ぶ
まず確認したいのは、PDFに文字データが含まれているか、紙をスキャンした画像なのかです。文字を選択・コピーできるかは、その違いを確かめる一つの目安になります。
画像の中の文字をデータとして扱うには、OCRという文字認識の技術を使います。AI-OCRなどの既存サービスを利用する方法もあれば、OCRと項目の抽出処理を組み合わせて、業務に合わせた仕組みを作る方法もあります。
表は左右にスクロールできます。
| 方法 | 向いている状況 | 導入前に確かめること |
|---|---|---|
| PDF変換・Excelの取り込み機能 | 単発の変換や、取得した表を少し整えれば使える場合 | 対象のPDFから表を取得できるか。変換後の修正がどれだけ残るか |
| 既存のOCR・AI-OCRサービス | 複数の書類から文字や項目を読み取りたい場合 | 対応する書類・項目、出力形式、確認画面、既存システムとの連携範囲 |
| 業務に合わせた連携・専用開発 | 既存機能だけでは合わない整形・確認・転記までつなげたい場合 | 作る範囲、導入・運用費用、変更時の対応、担当者が使い続けられるか |
対応するExcel環境では、Power QueryのPDFコネクタで表を取り込む方法があります。利用できる機能は製品や環境によって異なるため、まずは手元のExcelと、実際のPDFで確認するとよいでしょう。
既存サービスで必要な出力や連携まで対応できるなら、それを利用する選択肢があります。専用開発を検討するのは、必要な処理が既存機能では足りない場合や、複数の作業をつなぐ部分に手間が残る場合です。
自動化しやすい書類と、確認に手間がかかりやすい書類
同じ「請求書のPDF」でも、書類の状態によって読み取りや項目の整理にかかる手間は変わります。
文字が鮮明で、必要な項目が明確な書類は、自動化の対象として検討しやすいものです。一方、次のような書類は、読み取り結果や項目の対応関係を丁寧に確かめる必要があります。
- 文字が薄い、画像が粗い、傾きや汚れがある書類
- 手書きや訂正が多く、文字の判断が難しい書類
- 明細が複数ページにまたがるなど、表の構造が複雑な書類
- 「合計」「小計」「税込金額」など、似た意味の金額が複数ある書類
- 取引先ごとに項目名や書き方が大きく異なる書類
大切なのは、読み取り結果が一度うまく出たかだけで判断しないことです。普段よく届く書類に加え、読み取りにくい書類や、例外的な形式でも確認します。Microsoftの公式資料でも、書類の品質や形式の違いが抽出結果に影響することと、人による確認を業務の流れに組み込む考え方が説明されています。
導入前のテストでは、正しく取り込めた件数だけでなく、修正にかかった時間や、見落としやすい間違いも確認したいところです。読み取りは速くても、確認と修正に多くの時間がかかるなら、処理する項目や確認画面の見直しが必要です。
自動化を依頼する前に、整理しておきたい5つのこと
開発の相談では、使いたいAIやツールが決まっている必要はありません。現在の作業を、次の5点で共有できると、必要な範囲と費用を検討しやすくなります。
- どんな書類が届くか
- 請求書、納品書、注文書などの種類と、発行元による形式の違いを確認します。普段使っているサンプルがあると具体的です。
- 何を、どこへ転記しているか
- 取り出したい項目と、転記先のExcelやシステムを確認します。既存の台帳があるなら、列の構成も共有します。
- どれくらいの量と時間がかかっているか
- 月あたりの件数、1件の処理時間、月末などに集中するかを整理します。導入後に残る確認時間と比較するための材料になります。
- 判断や例外対応がどこにあるか
- 不明な金額の扱い、重複の確認、修正や承認の担当者など、普段は人が判断している部分を確認します。
- データの取り扱いにどんな条件があるか
- 書類を外部サービスへ送信できるか、社内で決められた保存先があるかなど、利用できる方法に関わる条件を確認します。
費用を比べる際は、開発・設定の初期費用に加え、サービス利用料やAPI利用料、保守・変更対応、導入後の確認作業も含めて考えます。手入力を減らせる量と、運用にかかる負担の両方を見ることが大切です。
読み取りから、その後の作業までつながる仕組みにする
GANCHAN 11号では、書類画像やPDFをOCRで読み取り、生成AIで項目を整理し、入力先のシステムへ転記するデスクトップアプリを制作しています。
この開発では、発行元ごとに異なるレイアウトへの対応に加え、読み取りの失敗や想定外の入力画面への対処、処理状況の確認、原因を調べるためのログも設計しました。詳しくは、書類データ入力を自動化するデスクトップアプリの制作・実装で紹介しています。
書類の文字を読み取る技術に加え、読み取った情報をどう整え、誰が確認し、どこへ渡すかを決めることが、日々使える仕組みにつながります。
「PDFをExcelにできるか」から一歩進めて、「どの手作業を減らしたいか」を出発点にすると、必要な方法を選びやすくなります。
PDF・Excelまわりの手作業を相談したい方へ
GANCHAN 11号では、中小企業の業務改善を支援する「仕組み実装室」を運営しています。既存サービスの活用から、業務に合わせたツールの開発まで対応しています。
「毎月この書類を見ながら、この台帳に入力している」という説明からで大丈夫です。現在の書類と作業の流れをもとに、自動化する範囲や、人の確認を残す部分を一緒に整理します。